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懲戒解雇と失業給付について、行政の解釈等を参考にして整理して見ました

労働

中小企業を主な顧客としている私にとって、助成金や失業保険の給付からみて、解雇や退職勧奨あるいは雇い止め等の問題を避けて通ることはできません。一方、解雇と似て非なるものとして、懲戒解雇というものがありますが、今回は、雇用保険の失業給付を念頭にこの懲戒解雇について整理しておきたいと考え、投稿することにします。

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問題意識の所在

中小企業を主な顧客としている私にとって、助成金や失業保険の給付からみて、解雇や退職勧奨あるいは雇い止め等の問題を避けて通ることはできません。現在、助成金をもらっている会社にとっては解雇、退職勧奨、雇い止めについては慎重ですし、ほとんど出来ないといってもよい状況があります。

つまり、普通解雇や退職勧奨に関しては1人でもあったら助成金は受けられないし、場合によっては受け取っていた助成金を返還しないといけない場合も出てきます。また、雇い止めや労働者からの退職の申し出による退職でも、その理由と一定の率や数があれば同様に助成金が受けられないことがあります。

一方、懲戒解雇であれば助成金を受けられないという事態は避けられるので、会社は何とか懲戒解雇にしたいと思い、他方、逆に労働者側は、普通解雇・退職勧奨であれば待期期間がなく、すぐに失業保険をもらえることをよく知っているので、普通解雇にならないかと考える人もいます。

このような意味で、この間弁護士の方の解雇、退職勧奨、雇い止めに関するアプローチの方法と社労士のアプローチの方法がかなり違っていることを感じてきました。そこで、懲戒解雇を含めた解雇、退職勧奨等と助成金、失業保険の給付についての正確な理解が重要考え、今回の整理に至ったわけです。

懲戒解雇について

まず、懲戒解雇という表現は、通常、会社の就業規則の制裁のところに出てきます。つまり、制裁の一番重いものとして、懲戒解雇があります。もちろん、就業規則に記載されていたとしても、そのまま懲戒解雇になるとは限りません。最終的には、司法の場で決着することになります。

以下、労働契約法第15条の懲戒の条文を掲載しておきます。

「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」

なお、懲戒解雇という表現は、労働基準法には出てこず、労働基準法では、第20条の解雇の予告の中に「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」という表現で、いわゆる監督署の除外認定を受ければ、解雇予告手当を払わなくてよいとするための規定として出てきます。

さらに、失業給付において懲戒解雇の場合は、3か月の給付制限がかかります。ただし、雇用保険法の中にもこの懲戒解雇という表現はでて来ず、「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」の中の一つとなっています。なお、自主退職の場合は、以前は3か月だったのですが、2020年10月1日から2か月に短縮されております。

従って、社労士としての私にとって、就業規則上での「懲戒解雇」、労働基準法上での「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇」、雇用保険上の「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」の3つの異同について整理しておくことは、重要だと考えており、今回整理することにしたものです。

労働基準法にある「労働者の責めに帰すべき事由」について

労働基準法20条にある「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇」について検討します。

1、通常この規定は、監督署の除外認定を受ければ、解雇予告手当を払わなくてよいとするための規定として、存在します。労働法コンメンタール(令和3年版、312ページ以下)によれば、この認定は、解雇予告制度により労働者を保護するに値しないほど(つまり、予告手当を払う必要のないほど)の重大又は悪質な義務違反ないし背信行為が労働者に存する場合であって、企業内における懲戒解雇事由とは必ずしも一致するものではないとも述べています。

2、そして、労働法コンメンタール(令和3年版)では「労働者の責に帰すべき事由」として認定すべき具体的事例として、次の6つが紹介されています。

(イ)原則として極めて軽微なものを除き、事業場内における窃取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合

(ロ)賭博、風紀紊乱(びんらん)等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合

(ハ)雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合及び雇入の際、使用者の行う調査に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合

(ニ)他の事業場へ転職した場合

(ホ)原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合

(ヘ)出勤不良又は出欠常ならず、数回に亘って注意をうけても改めない場合

3、つまり、上記のような理由で解雇されたのであれば、除外認定をうけられ、解雇予告手当を支払わなくてもよくなるのです。もっとも認定にあたっては、上記の「個々の例示に拘泥することなく総合的かつ実質的に判断すること」になっているし、また、この除外認定は、「就業規則上に規定されている懲戒解雇事由についても拘束されることはない」ともされています。

雇用保険の「自己の責めに帰すべき重大な理由」について

次に、雇用保険の規定である「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」について見てみます。

1、「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」として給付制限を行う場合の認定基準(雇用保険業務取扱要領、R4.4版)よれば、

(イ)刑法各本条の規定に違反し、又は職務に関連する法令に違反して処罰を受けたことによって解雇された場合

(ロ)故意又は重過失により事業所の設備又は器具を破壊したことによって解雇された場合

(ハ)故意又は重過失によって事業所の信用を失墜せしめ、又は損害を与えたことによって解雇された場合

(ニ)労働協約又は労働基準法に基づく就業規則に違反したことによって解雇された場合

(ホ)事業所の機密を漏らしたことによって解雇された場合

(ヘ)事業所の名をかたり、利益を得又は得ようとしたことによって解雇された場合

(ト)他人の名を詐称し、又は虚偽の陳述をして就職したために解雇された場合

の7つがあげられています。

2、そして、上記(ニ)の労働協約又は労働基準法に基づく就業規則に違反したことによって解雇された場合については、監督署での除外認定の具体的事例である「労働者の責に帰すべき事由」の6つのうち、次の4つについては、監督署の除外認定を受けることを要件としています(雇用保険業務取扱要領の表現と労働法コンメンタールでの表現が全く同じではないが、同じであると差支えないと考えています)。

(イ)原則として極めて軽微なものを除き、事業場内における窃取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合

(ロ)賭博、風紀紊乱(びんらん)等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす行為があった場合

(ホ)長期間正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合

(ヘ)出勤不良又は出欠常ならず、数回の注意をうけたが改めない場合

3、雇用保険上の「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」と労働基準法上の「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇」との違いについての大きな差はないが、細かく検討すれば違いはあるので、離職票を作る際には、留意する必要が出てきます。

まとめると次のようなことがわかります

1、以上、就業規則の中の制裁規定としての「懲戒解雇」、「労働者の責に帰すべき事由」として解雇予告手当を除外認定すべき「解雇」、雇用保険上給付制限のかかる「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」の3つを見てきましたが、そんなに違いはありませんが、詳しく見れば少しずつ違っていることがわかると思います。

2、司法の場で最終決着する懲戒解雇もそうですが、監督署での除外認定、ハローワークでの「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」のハードルはかなり高いし、時間もかかると考えています。助成金を受給している会社にとって、ちょっとしたことでも「懲戒解雇」にしたいとする「衝動」、「気持ち」はわからないでもありませんが、余程の「事由」でないと無理だと考えるのが妥当だと考えているところです。

3、懲戒解雇のハードルの高さについては、いずれ投稿するかもしれませんが、いずれにしても、個人的には、良好な雇用関係を作っておけばこのようなことを考える必要もないと考えてはいますが、もし似たような事例にぶち当たった時には、上記の整理内容を参考にしてして対応していただくことを期待しています。

             

参考資料

  • 令和3年版 労働基準法(上、下) 厚生労働省労働基準局編 

  • 雇用保険に関する業務取扱要領(令和4年4月1日以降)
雇用保険に関する業務取扱要領(令和5年4月1日以降)
雇用保険に関する業務取扱要領(令和5年4月1日以降)について紹介しています。

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